手縫いとミシン
手縫いとミシンを使った縫い方を採用しています。
手縫いのメリットは、なんといっても丈夫な製品が作れることです。
デメリットは、縫うのに時間がかかるため高価になることです。
ミシンのメリットは、素早く縫い上げられることです。製作時間が短いため、手縫いと比べて安価になります。
デメリットは手縫いに比べて糸が切れやすいことで、耐久性という面では手縫いにはかないません。
左から 菱目打ち 手縫い用の蝋(自作) 縫い針 手縫い糸(天然繊維)手縫い糸(特殊繊維) 手縫いとミシンの縫った内部サンプル 手縫いとミシン見分けサンプル です。
手縫いとミシンの縫い方の違い
手縫いの手順:
まず、菱目打ちで穴をあけます。穴の正確さが縫い目の美しさに大きく影響します。
そして、手縫い用の蝋を染み込ませた糸の両端に針をつけて、針と針をクロスさせながら、ひと針ひと針引き締めて縫っていきます。
ミシン縫いの手順:
上下の糸をミシンにセットして、革に針を落とし上糸と下糸をひっかけながら縫っていきます。
手縫いの特長:
糸に手縫い用の蝋を浸透させることで、蝋が糸の繊維の擦れを防ぐ潤滑油のような役目をして丈夫な糸となります。
また、蝋がしみこんでいることにより、糸がクロスするときに摩擦で糸がくっつくように固定されて緩みにくくなるため、万が一糸が切れてしまっても簡単にほつれないようになっています。
手縫いの手順とミシンの手順で縫った場合の内部がどうなっているのかを見るためのサンプルです。左が手縫い、右がミシンです。
手縫いは糸に蝋を塗り込み、クロスさせながら縫っています。縫い目の中でクロスされた糸同士が摩擦でくっつくように固定されるので、簡単には抜けにくくなっています。
ミシンは糸に蝋を塗ることができないのと、上糸と下糸をひっかけながら縫うため、一度糸が切れればスルスルと糸が抜けてしまいます。
ただし、手縫いにしてもミシンにしても、製作者の習熟度や道理の理解、製品に対する気遣いにより変わってきます。
すべての手縫いが丈夫で、すべてのミシンで作った製品が脆いわけではありません。縫い目の綺麗さも同じです。
世間には色々な製品がありますが、お客様自身が物に対する興味を持ち、良い製品を見分ける目を養う事が必要になってきます。
手縫いとミシンの見分け方
製品の表面を見て、ひとつひとつの縫い目の右側が下がっているものが手縫い、縫い目の右側が上がっているものがミシン縫いです。(穴の開け方や縫い方によって例外もあります)
また、ミシンの縫い穴はとても小さいですが、手縫いの縫い穴は菱目打ちや菱切りで開けるため、ミシンと比べて大き目の縫い穴が開きます。
手縫いの製品と、ミシンの製品とでは作り方が異なり、手縫いで縫えてもミシンでは縫えない箇所もあります。そのため、「この手縫いの製品をミシンで作ってほしい」などの要望は難しい場合もありますので、一度ご相談下さい。
コバ処理について
コバとは革の断面です。
手縫い同様に処理の仕方で製作にかかる時間が変わりますので、しっかり処理すればするほど高価になります。
布の場合、端は折って縫いこんだり、ロックミシンというミシンを使って処理しますが、これは布がほつれないようにするためです。
革は繊維が複雑に絡まっているため、すぐにほつれることはありませんが、時間が経つとほつれてきます。
また、革の表は防汚加工されていますが、断面は未処理なため、革の繊維が緩んでほこりなどが入り込み、黒ずみや耐久性が落ちる原因になります。
タンニン鞣しの革は可塑性(力を与えて生じた変形がそのまま維持される性質)があるので、コバに水分や油分を含ませて圧を加えると、圧縮された状態が維持されてほつれにくくなります。
コバに水分や油分を含ませ、布や木で磨いて圧縮するのが基本のコバ処理です。
更にコバの凹凸を取り除いて滑らかにし、表面を薬品やワックスで覆う処理をすることで、汚れやほつれにより強いコバになります。
左から トコノール ふのり 自作のコバワックス です。
コバ処理の種類
・自作のコバワックス加工(タンニン鞣しの革)
熱したコテを使い、熱で溶かしたワックスをコバに塗り込む方法です。
熱によるコバの収縮を利用しつつ、溶けたワックスをコバに塗り込み完全にコバを覆います。
まずは通常通り、コバの凹凸を取り除く処理をしながら、革の可塑性を利用して何度も磨いて圧縮していきます。
次に、熱したコテにワックスを付けてコバに塗り込みます。
熱によって革が収縮して固まるとともに、ワックスがコバの表面をコーティングするため、汚れにもほつれにも強くなります。
その後布などで磨くことにより、美しい艶が出ます。
タンニン鞣しでは一番時間がかかり、特別な物を作るときに使用します。最もコバに艶が出て長持ちするコバ処理です。
・トコノールなど市販のコバ処理剤を使った加工(タンニン鞣しの革)
コバを磨いて圧縮する際に、コバ処理剤を塗り込む方法です。
処理剤がコバの奥まで浸透し繊維を固め、表面をワックス成分がコーティングします。
コバの凹凸を取り除く処理をしながら、複数回処理剤を塗り込んで磨いていきます。
一般的に使用する方法です。
・ふのり(海藻の一種)の加工(タンニン鞣しの革)
コバを磨いて圧縮する際に、水に溶かしたふのりを塗り込む方法です。
ふのりとは昔から天然の糊として使われてきた海藻の一種で、磨いて圧縮したコバの繊維を固めるために使います。
コバワックスを使った処理 > トコノールを使った処理 > ふのりを使った処理 > 未処理
コバ処理の仕方によって、このような順番で丈夫さに差が出ます。
・クロム鞣しの革のコバ処理
クロム鞣しの革は柔らかく、タンニン鞣しの革のような可塑性がないため、圧縮してコバを固めることができません。
そのため、目止め液(コバを固める薬剤)を染み込ませてコバを固めたうえで表面を削り、コバの凹凸をなくす作業を繰り返します。
その後滑らかに整ったコバに自作のコバワックスを塗り、コバを覆う方法をとっています。
目止め液の乾燥時間もあり、タンニン鞣しの革の処理よりも時間がかかりますが、この方法であれば柔らかい革もコバ処理ができます。
この他には、コバを薬剤で覆って処理する方法もありますが、いったんコバのひび割れや剥がれなどがはじまるとボロボロな見た目になるので採用していません。
デメリットを承知していただければ、既存の商品のコバを未処理で製作することも可能です。
コバの処理の度合いについてはご相談下さい。